第66章 全てはあなたを喜ばせるため 〜信長誕生日sp〜
吉法師を見てたら思い出した。
小さな頃良く読んでもらった絵本に出てくるフライパンのパンケーキ、お母さんがレシピ本を手に入れたと言って、何度も作って食べた事を思い出した。
「あれなら、卵と砂糖と小麦粉だけで作ることができるし、思い出の味を共有してもらえる」
我ながら良い考えと思い、私は次にプレゼントの準備を始めた。
プレゼントは、吉法師と信長様でお揃いの浴衣。
時間がなくて中々踏み切れなかったけど、ずっと二人にお揃いの何かを作りたいと思ってたから、これから夏に向けてちょうどいいと思う。
「簡単なパターンですむから、今日明日にはできるよね。吉法師も母に協力してね」
「ばぁぶーー」
「ふふっ」
きっと上手くいく。
そう思ってたけど...........
「ぎゃああーーーーーー」
信長様のお誕生日当日、吉法師の機嫌はここ最近なかった程に悪くなった。
「吉法師どうしたの?」
何がそんなに機嫌を悪くしているのか、授乳をしても機嫌が良いのはほんの僅かな時間で、抱っこをしても、お散歩をしても中々泣き止まず機嫌は治らない。
「風邪でも引いたかな」
おでこに何度手を当てても、熱はなさそうだし一体どうしたんだろう?
今朝からずっとこの調子で、パンケーキは何とか焼けたものの、浴衣の製作は、吉法師の浴衣(甚兵衛)は昨日完成し、信長様の浴衣はあと三分の一程残っている。早く取り掛からないと間に合わなくなりそうだった。
「吉法師、おんぶするから少し寝ようか?」
困った時のおんぶ紐(抱っこ紐)を取り出して背中に吉法師を背負う。
いつもなら、ご機嫌な声を上げながらこれで眠って行くのに、今日は背中に乗せた途端に海老反りになって怒るように泣き叫んだ。
「ぎゃあーーーー」
「わわっ、ごめんごめん、おんぶ嫌だったね」
最強の味方だと思っていた抱っこ紐も今日は役に立たない。
「浴衣.....間に合わないかも....」
焦りと、二夜続けて浴衣制作をして寝不足な頭に、吉法師の泣き叫ぶ声がこだまし、正常な感覚を奪って行く。