第66章 全てはあなたを喜ばせるため 〜信長誕生日sp〜
「お願い、泣き止んで」
泣き喚く吉法師を抱いて、授乳をする事にした。(もうこれが、最後の頼みの綱)
吉法師は泣き止んで、必死でおっぱいを飲み始めた。
「お腹、空いてたのかな。気がつかなくてごめんね。いい子ね。たくさん泣かせてごめんね」
泣き疲れたのか、うとうとし始めた吉法師を見ていたら私も眠くなって来た。
(おっぱいを口から外したら起きてまた泣くかもしれないし、一緒に少し眠って、後でこっそり起きて完成させよう)
襖が閉まってる事を横目で確認した私は、授乳をしたまま横になり、目を閉じた。
起きようと言う気はあった。
その証拠に、何度も、何度も、夢の中で起きては、また夢の中で起きるを繰り返した私が本当に夢から目覚めた時には、やはり吉法師は横にいなくて.....
「吉法師?」
部屋を見渡すと、ごろごろと寝返りで転がっていったのだろうか?
無防備に広げられ置かれた私の裁縫道具に手を伸ばしていた。
「だぁ、」
何でも口に入れてしまう吉法師が手に取ったのは針山で.......
「吉法師ダメっ!」
今度は、体の動いた私は慌てて走り寄り、吉法師の手から針山を取り上げた。
一瞬固まった吉法師は目をパチクリとさせたあと......
「......ふ、ふえっ、ふえっ、ふわぁああーーーん」
大泣きした。
「ごめんっ、違うの。これは危なくて、いたいいたいで、ないないなのっ!分かる?ほら、これはなーいない」
「ギャァーーー」
大粒の涙に、大量の鼻水も流しながら、本日最高の泣き声を上げて吉法師は泣き続ける。
「っ、だから、ごめんって....」
一つが上手くいかないと、全ての事が上手く行かない。
吉法師の機嫌が悪いのは、吉法師のせいじゃない。浴衣が完成していないのは、私の読みが甘かったせいで、吉法師は何も悪くない。無理をするなとあれ程言われていたのに無理をして寝不足になって、挙げ句の果てまた吉法師を危険な目に合わせて声を荒げてしまった。
「もう、泣かないで.........私も、泣けてくる......」
妻となり、母となっても上手く立ち回れない自分が情けなくて、吉法師の横にしゃがみ込んで私も泣き出した。