第65章 秀吉のぼやき⑤〜番外編〜
これは、体良く子守りを俺に押し付けたと言うやつでは.......
だが、この腕の中にいる若様に罪はない。しかも大切な織田家の嫡男!
これは、今更だが責任重大では.......!?
はっ!とりあえず若様にご挨拶をせねば。
「吉法師様、秀吉でございます。宜しくお見知りおきを」
御くるみに包まれた若様に挨拶をすると、
「だぁーー」
まだ穢れを知らない愛らしく大きな目で俺を見つめながら、言葉を発せられた。
(か、かわいい。)
顔は完全に信長様似だ。
この利発そうな所も信長様に似ておられる。
「あっ、そうだ。若様に玩具を」
御くるみから伸ばした小さな手に、与平の店で購入した玩具を握らせた。
「キャハハ」
吉法師様は機嫌よく笑うと玩具を口に含んだ。
元気に笑う姿はアヤ似だな。
「ばぁあぶぅーーー」
「いててっ!」
今度は玩具を大きく振りかざし、これが覗き込む俺の頭を直撃した。
暴力的な所は信長様にそっくりだ!!(本人には言えないが....)
それにしても、流石二人のお子だ。
人馴れしているのか全く泣き出しそうな気配はなく、初めて会う俺にもご機嫌な笑顔を見せてくれている。
だがしかし、相手は赤子。泣き出したら最後だ!
「こうしちゃいられない」
皆への挨拶はとりあえず諦め、俺は吉法師様のご機嫌を損ねない様に、策を講じることにした。
・・・・・・・・・・
「秀吉様っ」
「葵」
結局、赤子に有効な策などあるわけもなし、俺は葵をいつもの茶屋に呼び出し助けを求めた。
「秀吉様お帰りなさいませ」
「悪いな。久しぶりに会うのに若様も一緒で」
「いいえ、全然です。将来の練習と思えば.....って、私、はしたない事を......」
自分の言葉を恥じて、葵は慌てて口を噤んだ。
そう、恋仲となり将来の約束もした俺たちは、互いの親への挨拶と信長様への報告も済ませ、今は許婚となっていた。(葵のあの親父さんを説得するのはかなり骨が折れたが.........)
この中国攻めが落ち着いたら一緒になろうと決めている。