第65章 秀吉のぼやき⑤〜番外編〜
「おっ、秀吉戻ったか。大義であったな」
本丸御殿に入った所で信長様とばったりお会いした。
「信長様っ!」
「あぁ、堅苦しい挨拶はいらん、頭を上げよ」
予期せぬ所でのご対面で慌てて頭を下げる俺を、信長様は止めた。
「ちょうどいい、貴様戻ったばかりで今日はすることもなかろう?」
ニヤリと口角を上げる信長様と、その手に抱えている包の様なものが気になった。
「えっ、いいえ.....信長様はじめ、皆に新年の挨拶もまだですし、これまでの戦況のご報告等々もございます。あとは.....」
流されるな俺...........そのまま広間か天主へと信長様をお連れしなければ多分何かに巻き込まれる。
「戦況は既に貴様からの文で聞いておるゆえ急ぎ聞く程の事ではない。皆に挨拶なら、此奴と一緒にしても構わんだろう」
「はっ!?」
(此奴とは!?)
嫌な予感しかせずただ驚くばかりの俺の前に、信長様は腕に抱いていた包をすっと出して見せた。
「なっ!」
「俺の息子の吉法師だ。会うのは初めてであろう?」
包は包でも、それは赤子を包む”御くるみ”で、その中には愛らしく俺を見つめる吉法師様のお姿が.......
「吉法師様........」
信長様とアヤの間に生まれた吉法師様を見て、じーーんと感動をしていると......
「抱く時は、首からこう待て」
「は、はいっ」
信長様に言われるがまま、お小さい吉法師様を俺の腕の上に乗せてもらい抱っこをした。
「そうだ。そのまま暫く抱いててやれば寝ていく。では頼んだぞ」
「..............は?」
(今なんと?)
「俺はアヤと用事がある。其奴を頼んだぞ」
(はっ!しまった!そう言うことか!!)
「信長様っ、お待ち下さい!俺に吉法師様の面倒など見れるわけが!」
「貴様はその昔、沢山おる弟妹達の面倒を見てきたと言っておったではないか。時間がない、アヤを待たせておる」
「なっ、用事って.....」
それは、逢瀬と言う名の用事では......
「案ずるな、泣き出す頃には戻って来てやる。頼んだぞ!」
足取りの軽さとあの機嫌の良さ......
間違いなくアヤとの逢瀬だ。