第8章 安土の休日
しばらく走って、秀吉さんが追ってこない事を確認した私達は、漸く足を止めた。
「はぁはぁ、秀吉さん、怒ってましたね」
「城に戻った後が面倒だな」
言葉の割に、信長様は楽しそうだ。
「まぁよい。行くぞ」
手を引かれ、城下町を歩く。
町人の格好をしていても、長身で身のこなしが優雅な信長様は、やっぱりかっこよくて、すれ違う女の人達の視線を集めている。
「信長様、あの.....」
「今はノブと呼べ」
長い指に言葉を止められ、耳元で囁かれた。
「あっ、そうですね。じゃあ、ノブ様、もう少し行った所に、美味しい甘味屋さんがあるので行きませんか?」
「様はいらん。ノブでいい」
「ノブ、ふふっ照れますね」
妙に艶っぽい信長様にドキドキしながらも、ノブになり切ろうとしてくれる信長様がおかしくて笑ってしまう。
甘味屋さんに着き、椅子に腰を下ろしてお団子を注文した。
程なくして、お団子が運ばれて来た。
「わぁ美味しそう。いただきます」
パクっとお団子を頬張る。
「美味しい。幸せ〜」
久しぶりの甘味に頬が緩む。
「貴様は本当に、美味しそうに食べるな」
私を見ながら信長様が笑う。
「だって、久しぶりで。信長様っじゃなかった。ノブのお団子も一口下さい」
スッと私の方にお団子を傾けてくれ、それをぱくっと一口頬張る。
「これも美味しい。私のお団子もどうぞ」
信長様にお団子を傾ける。
信長様は、私の手を取ってお団子を口にした。
その所作の優雅さに、店中の女性が振り返る。
「美味いな。全部買い占めるか」
ニッと私を見て笑う。
「ダメです!そんなことしたらバレちゃいますよ」
「冗談だ」
「もうっ、ノブが言うと冗談に聞こえません」
(本当にしそうだから怖い)