第8章 安土の休日
「アヤ、またついておる」
そう言って信長様は私に突然顔を近づけて、
ペロっと、口を舐めてきた。
「っ........」
「貴様は童のようだな」
「だからっ、言葉で教えて下さい!って言ってるのに!」
みんなも見てるのに、顔から火を噴きそうな程恥ずかしくて、どうしていいか分からない。
恨めしそうに信長様を睨むと、
「これを食べて機嫌を直せ」
信長様のお団子を口に入れてきた。
「こっ、こんなんで.....子ども扱いしないで下さい」
もぐもぐと、口に入れられたお団子を口にしながらも、ムスッとした私に対して、信長様は、ずっと笑っていてとても楽しそう。
怒ってるのがバカみたいに思えて来て、私も一緒に笑ってしまった。
お団子を食べた後は、湖の周りを手を繋ぎながら歩いた。
話のほとんどは、私のいた時代の話で、信長様はとても興味深そうに話を聞いてくれた。
大きな木の下で腰を下ろす頃には、日が少し傾き始めていた。
「もうすぐ、日が暮れますね」
信長様は私の膝枕でくつろいでいる。
「秀吉に、どやされるな」
「ふふっ、門の前で、仁王立ちしてそうですね」
信長様の頭を撫でる。
(本当に楽しかったな)
「信長様、今日はありがとうございました。すごく楽しかったし、嬉しかったです」
「貴様の笑う顔が見れた。俺はそれで良い」
クッと、私の髪を引っ張って引き寄せ、優しく口づけた。
いつか見た映画のワンシーンの様だ。
王女様と一般男性が、とある街で一緒に過ごし恋に落ちる。でも、身分違いの恋は成就する筈もなく、二人は最後にキスを交わして別れを告げる。
信長様と私は一緒に帰るけれど、常に心の片隅にある不安の種が私の心を揺さぶる。
「離さないで、下さい....ね。」
「離れられると思うな。貴様は一生離さん」
涙が出そうで、それを誤魔化す様に信長様に口づけをする。
信長様の手が伸びて、私の頭を抑え、口づけを深いものにした。
ずっと、こんな風に二人で過ごして行けます様に。
口づけを受けながら私は心からそう願った。
やがて陽も落ちて、二人で手を繋ぎながら帰ると、やっぱり仁王立ちで待っていた秀吉さんにこってりとお説教されたのは言うまでもない。