第8章 安土の休日
急いで城門まで駆けて行くと、
柱に寄りかかる人の影が見えた。
更に近付いて行くと、町人風に変装した信長様だった。
「のぶっ......っ」
声をかけようとしたけど、あまりのかっこよさに言葉を失ってしまう。
信長様は、小袖を着崩して腕まくりをし、髪もいつもよりクシャッとさせてその上に手ぬぐいを巻きつけていた。
どこから見ても粋な町人風だけど、とても目立っている。
「アヤ、何を呆けておる」
見惚れてボーっとする私を信長様が覗き込む。
「信長様がかっこよくて。どんな格好でも似合うんですね」
「ふっ、貴様も町娘が板についておるな」
笑いながら髪を梳かれた。
「手を、繋いでもいいですか」
恥ずかしさを隠すように話しかける。
「恋人繋ぎだったな」
昨夜話した事を覚えてくれていた信長様は、指を絡めて優しく私の手を繋いでくれた。
「わぁ」
嬉しくてついつい声が出てしまう。
「こんな事でそんなに喜ぶとは、貴様は本当におかしな女だな」
顔を見合わせ笑い合っていると、
「信長様っ、そんな格好をしてどちらへ?アヤっお前〜」
城門に向かって、秀吉さんが駆けて来た。
「アヤ、逃げるぞ」
私の手をそのまま引っ張って、信長様が走りだした。
「あっ、信長様、お待ち下さいっ!」
秀吉さんの声が追いかけてくる。
「秀吉さんっ、ごめんなさい」
謝りながらも、私は信長様の手を必死に握って一緒に逃げ出した。