第63章 妻に望むもの〜信長様誕生日sp〜
「あ、信長様待って」
私を抱き抱えたまま天主へと行こうとする信長様を止めた。
「何だ」
「その荷物、台所に置いて行きたくて」
信長様のお祝いの為の食材だから。
「その必要はない」
信長様はきっぱりと言って、歩みを進めた。
「えっ、何でですか?」
後で自分で置いて来いって事かな?
「ふっ、直ぐに旅立つ。荷物をまとめよ」
「..........旅立つって、もう戦に行かれるって事ですか?」
やっと会えたのにそんな......
目にじわじわと涙が溜まって来て、それを見られない様に、信長様の首に手を巻きつけてぎゅーっと抱きついた。
「阿呆、勘違いするな。貴様と旅に出る支度だ」
「へっ?」
「人の話は最後まで聞くものだ。時間が惜しい。ニ日分ほどの荷物を今直ぐまとめよ。直ぐに出立だ」
ええっ!!!!!
・・・・・・・
パッカパッカパッカと、あっという間に信長様の馬の上.........
「少し、腹が膨らんだか?」
私のお腹に手を乗せ、そのお腹を私の肩越しに覗き込む様に見て信長様が言った。
「分かりますか?そうなんです。ちゃんと赤ちゃん成長してて」
「不思議なものだな、出てくるまでは会えんのに、確かにここに存在しておるとは」
信長様は、本当に不思議そうに、そして愛おしそうにお腹に手を当てる。
「私達の声とかも、ちゃんと聞こえてるらしいですよ」
「何?此奴の耳を一時的に塞ぐ事はできんのか?」
急に真剣な声で信長様が聞いてきた。
「?お腹の中なのに、無理じゃないですか?」
自分の声を届けたくないのかな?変な信長様。
「まずいな、我らの子に貴様の夜の声を聞かせると言うことになるが、それは策を練らねばならんな」
顎に手を当て考える様に、本当に困った顔で信長様は言った。