第62章 旅立ちの日〜最終章〜
「皆の者静まれ!」
その一言で、ここにいる全てのものが、一斉に真剣な面持ちで俺を見る。
「我々はこれより、毛利元就討伐に向け、中国攻めへと向かう。宿敵毛利を討ち滅ぼし、天下布武への布石を打つ、命の惜しいものは引き止めはせん。今すぐ隊を抜けここに留まるが良い。その他の者は、俺に命を差し出せ、決して無駄にはせん」
「「「おぉぉーーーーーっ!!」」」
兵達が叫ぶ。中国攻めに向け、此奴らにも迷いはない様だ。
「あとは、締めだな。アヤ」
俺の前に座り、ただ呆然と事の成り行きを見ているアヤに声を掛ける。
「は、はいっ!」
二年前、貴様と出会っていなければ、俺は今ここにはいない。
「勝利の口づけを俺にしろ」
俺の心にいとも簡単に入り込み、奪って行った女。
「へっ?............え、えぇっ!い、今っ⁉︎」
「ふっ、今しなくていつする」
俺は、貴様と出会い、愛し、愛される喜びを知った。
「でも、みんな、見てます.....よ?」
「だから良いのだ。貴様は俺にとって奇跡の女だ。貴様の口づけが俺に幸運を呼び込み、兵達の士気を上げる」
「っ、..........」
夢中で愛した女が、俺を愛し、俺の子をその身に宿した。これ以上望むことなど何もないと言いたいが、まだ足りん。
「皆を待たせるな、早くしろ」
貴様の事になると、俺は貪欲になる。
常に貴様が足りんのだ。
「うぅーーーーー、いじわる」
顔を最大限に赤くして観念した様に、アヤは俺の頬に手を当てた。
「っ、.............どうかご無事で」
そして予想通り、アヤは触れたのかどうかも分からない程度の口づけを俺に落とし、素早く唇を離そうとした。
「待て、まだ足りん」
「えっ?」
目を見開き焦るアヤに笑いを堪えながら、アヤの頭を掴み寄せ、
「愛してる」
「わっ、んんっ!」
奴が酸欠を起こしそうな程に濃厚な口づけをした。
「「「うおおぉぉーーーーーっ!!」」」
その日、安土城には割れんばかりの歓声が響き渡り、俺たちは中国攻めへと旅立った。