第62章 旅立ちの日〜最終章〜
「あっ、そう言えば、金平糖は持ちましたか?」
この間一緒に買いに行った金平糖。
「それは秀吉に任せてある」
「じゃあ、安心ですね。でも、食べ過ぎないで下さいね」
秀吉さんに任せてあるなら安心だけど
「貴様と違って、腹が出るほど食ったりはせん、安心しろ」
「っ、なっ、ひどい!お腹が出るほどって、蟹の時だけだったのに」
それにあれは、信長様に他に好きな人ができたと思って、やけ食いで......
ムッとして、ポカポカと、信長様の胸を叩いた。
「ふっ、冗談だ。だが、これからは本当にこの腹が大きくなって行くのだな」
私のお腹に手をあて、信長様はしみじみと呟く。
実は朝餉の後、二人で家康の部屋を訪れ診てもらったのだ。
家康の見立てだと、多分懐妊。
年内には産まれてくると言っていた。
「この子と一緒に、信長様が無事にお帰りになるのを待ってます」
「ひと月ほどで先ずは戻る予定だ。その時はまだ腹は出ておらんな」
「ふふ、赤ちゃんがお腹にいるとお腹が空いて、たくさん食べちゃうらしいですよ?出てるかも」
「それも一興だ。どんな貴様になっておるのか楽しみだな」
甲冑を着け終わり、信長様は私を抱きしめた。
「行ってくる」
「ご無事で、いってらっしゃいませ」
軽く触れるだけの口づけを落とし、ガチャガチャと、甲冑の音をさせながら、信長様は広間から出て行った。