第62章 旅立ちの日〜最終章〜
目が覚めると、既に空は明るくなり朝で......
でも、今日は笑って過ごすと決めていたから......
「信長様、おはようございます」
ちゅっと、いつも通り、私からおはようの口づけをした。
出会ったばかりの頃、針子仕事やお城の掃除を禁じられ、それを再開させてもらうための条件として約束したこの朝の習慣。
気がつけば、当たり前の一部になっていた。
「貴様、起き抜けから元気がいいな」
ニッと笑う信長様は私の頭の後ろに手を入れ引き寄せると、挨拶では済まない口づけをする。
「んんっ..........」
貴様が好きだと、そう伝えてくれている様なこの口づけが大好きで、ずっとしていたくて......
「................っ、」
唇が離されると、さぞかし残念そうな、もっと欲しいと強請るような顔を、私はしているのだろう。
「そんな顔をするな、もっと奪いたくなる」
信長様は苦笑しながら私のオデコに優しくキスを落としてくれる。
こんなキスとも、暫くはお別れだ。
だめだ、笑え、笑え......
支度を終え、朝餉に向かう。
差し出されて握る信長様の手は大きくて、その指は節くれだっていて、ゴツゴツとしていて温かい。大好きな手。
広間に入ると皆揃っていて、信長様は私の手を引きながらその中央を歩いて上座へと行く。
そして、信長様の合図で皆が朝餉を食べ始めた。
常に堂々と振る舞い、ここにいる武将達を一つに束ね天下統一を目指す志の大きな人。それが私の旦那様。
こんな凄い人がなぜ私を選んでくれたのかは、きっと一生分からない。
私は、この大きくて温かい人の隣で、なぜ私がと不思議に思いながら、これからも幸せに包まれるのだろう。
「アヤ、そんなに見つめても、今は抱いてはやれんぞ」
穴があく程に信長様を見つめていたら、みんなの前で笑いながら言われた。
「ちっ、違いますっ!そんなつもりじゃ」
手を振ってあたふたとする私に、皆の笑い声が広間に響く。
「うー、いじわる」
恥ずかしさを隠すため、私は下を向いてお味噌汁を啜った。