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恋に落ちて 〜織田信長〜

第62章 旅立ちの日〜最終章〜



「覚えてますか?私たち、賭けをした事」


『わっ、私は負けません!体は屈しても、心は屈しませんから。信長様の思い通りにはなりません!』


『面白い。その賭けのってやろう。』




「.............そうであったな」


「結局、私がすぐに好きになってしまって、全然賭けになりませんでしたけど、ふふっ」


好きだと気づいた瞬間から、世界が180度変わった。灰色だった世界が色付き、触れられる恐怖は喜びへと変わり、抱かれる度に残る背徳感は甘くて優しい幸福感へと変化した。


「いや、違う。賭けは最初から俺の負けであった。貴様をこの手に抱いた瞬間から、俺の心は貴様に捕われていた。賭などにならぬ程に」


「そうなんですか?その割に、「その身も心も、俺の物だと言え」とかなんとか、俺様な事を言ってましたよ?」


本当に、いつも俺様で....

「言葉通り、貴様の身も心も俺の物になった」

不敵な笑みを浮かべて触れるだけのキスをする信長様は、今も俺様で、でも誰よりも愛おしい人。



朝が来たら、暫くはこうして触れ合う事はできなくなる。


「明日の夜から一人で寝られるかな......って、あ」


信長様の前では、決してネガティブな事は言わないでおこうと決めていたのに、油断して口から漏れてしまった。



「案ずるな、貴様は眠る事にかけてはこの安土の中で誰よりも秀でておる。遅くなった俺が天主に戻る前に寝落ちしていなかった日が幾日あったと思っておる」


「そっ、それは、安心していたから」


信長様が近くにいると言う安心感に、いつも包まれていたから。でも、明日からは違う。冷えた褥は温まることはないのだ。


信長様は私の左手を取り、自身の左手を絡ませた。


「寂しい時はこの指輪を見ろ。俺たちはいつでも繋がっておる」

そう言う信長様の目は力強くて、何の迷いもない。


「そうですね。離れていても、心はいつも信長様のお側に」

指輪のはまった信長様の指に口づけると、信長様もまた、私の指に口づけを落とした。



「少し、眠れ。」


私を再び抱き寄せ、優しく掌で目蓋を閉じられた。

眠って目が覚めれば朝になってしまう。朝にならなければいいのに。

でも、信長様の逞しい腕に包まれ、温かな胸に頬を寄せると、だんだんと目蓋が重くなり、眠りに落ちた。




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