第62章 旅立ちの日〜最終章〜
まだ、夜..........
信長様に愛された後、私は中々眠りにつけずにいた。
何度目を閉じても、眠りが訪れない。
抱きしめられた腕越しに外を見ると、まだ外は暗い。
この暗さが私の心を少しだけ落ち着かせる。
「..........眠れんのか」
動かない様にしていたつもりだけど、眠りの浅い信長様は、私が眠れない事に気付かない訳がなく........
「ごめんなさい。私に構わず、信長様は少しでも眠って下さい」
信長様は、世が明けたら中国攻めへと旅立たれる。だから、少しでも休んで欲しいのに。
「眠れぬなら、もう一度愛してやろうか」
片肘をつき、もう片方の腕で私を抱きしめたまま、信長様は冗談を言う。
「やっ、それは........」
連日に渡って信長様は気を失いそうになるまで(失った夜ももちろんある)私を抱き続けた為、もう私の身体は限界だ。
それでも、今夜は眠れない。
信長様が戦に行く前の夜はいつもそうだ。
どんなに愛を刻まれても、眠りに落ちることは無い。
「冗談だ。貴様が今夜は眠れぬ事は分かっておる」
焦る私に笑いながら、優しく背中をさすってくれ、私は信長様の胸に頬を寄せた。
「..............私達が、出会った頃の事を覚えてますか?」
初めて信長様と出会ったあの本能寺の変、あれから二年が経った。
「忘れる訳がない。変な格好をした変な女であったからな」
ククッと、思い出し笑いをする信長様。
「もう、ひどいっ!そんな変な女を無理矢理ここに連れて来たくせに」
私も本気で怒ってるわけでなく、少しだけ信長様の胸を押すと、抱きしめる腕に力がこもった。
「.....そうだな、俺自身も不思議であったが、どうしても貴様を手に入れたかった」
..........そして、抱かれた。
恐怖と快楽の狭間でおかしくなりそうな日々が続いたけど、時折感じる温かさに、少しづつ心が奪われて行った。