第62章 旅立ちの日〜最終章〜
「あっ、でもまだ確定では.....って、んっ!」
顔を上げた途端、抱きしめられキスをされた。
「ふっ、貴様はいつも俺の予想を上回る、退屈する暇がない」
「信長様?」
「俺も父となるか....... アヤ、貴様も母となる」
「........はい。私達......家族になるんですね」
私も、信長様を抱きしめ返した。
「そうだ、家族に、俺と貴様の血を分けた子がこの世に生まれて来る」
「信長様...........」
顔からも、声からも、抱きしめる腕からも、喜んでくれているのが伝わって来る。伝えてよかった。喜んでくれて良かった。
一体、どんなお父さんに信長様はなるんだろう.....
「ふふっ......」
「何だ、急に笑い出して」
腕の中で笑い出した私を信長様は怪訝そうに覗き込む。
「だって、信長様が赤ちゃんを抱っこしてる姿が想像できなくて、ふふっ」
子供をあやしたり、赤ちゃんことばを話す姿を想像できない。むしろ、凄みをきかせて泣き止ませそうだ。
「そうだな、数多の女は抱いてきたが、赤子をこの手に抱いたのは市の子供の茶々だけだ」
ニヤリと悪戯な答えで応戦して来る。
「もうっ、すぐ変な事を言う。過去の女の人自慢はいりません、それに茶々を巻き込まないでください」
過去の女の人たちの事を話題に持ち出すなんてひどい。過去とは言え、まだ信長様の記憶に残っているのかと思うと胸がチクッとする。心が狭いとは思うけど.......
「そんな事で機嫌を損ねるな、俺が、貴様でなければだめな事は知っておるだろう。貴様しか見ておらん」
両手で私の頬を挟んで見つめ、信長様は言う。