第62章 旅立ちの日〜最終章〜
時間がないと言って、閨に私を連れて行きたがる信長様を何とか説得して、私達は城下にある神社へとやって来た。
「わがまま言ってごめんなさい。どうしてもここに来たかったんです」
手を繋ぎ、石段を登る私達。
「何だ、神仏などに願わんでも俺に言えば良いものを。貴様が願えば何でも叶えてやる」
信長様は、閨に直行出来なかったのがまだ不服そうに顔をしかめる。
「わ、分かってます」
本当に、私の願いは全て信長様が叶えてくれた。
愛される喜びも、愛する人と結婚して生涯を共に生きて行く事ができる幸せも、そして、このお腹に宿った小さな命も........
「でも、これは二人でお願いしたかったんです。私達、二人の事だから」
「.......?何の事だ」
石段を登り切り、私は足を止め、怪訝そうな信長様の手を取りお腹にあてた。
「まだ確かではないけど、でも感じるんです。ここに、その......」
口に出すのが何だか恥ずかしい。
「........何だ、また蟹でも食い過ぎて腹でも壊したのか?」
そして、全く空気を読まない信長様の言葉。
「ちっ、違いますっ!蟹は、食べたいけど食べてません....違います。そうじゃなくて、ここに、私達の........」
うぅっ、その先の言葉に、気付いて欲しいのに....
信長様と自分の手をお腹にあてたまま、じとっと信長様を見ると、
「.........もしや..........子が....できたのか?」
何とも嬉し恥ずかしくて、私はそのまま無言で頷いた。