第62章 旅立ちの日〜最終章〜
バタバタと廊下を走る音が響く。
ダメだと分かってるけど、今日はそれを咎める秀吉さんは葵との世界の中。
だって、早く会いたい。
本当にこの時ばかりはいつも着物の裾が邪魔だと思う。
上手く走れないから、裾を少しはだけさせて走ろうとした時......
「そこのじゃじゃ馬止まれっ!」
大好きな、大好きな人の声。
振り返り、その愛しい人の名を呼ぶ
「.......信長様っ」
「貴様は本当に.......所構わず着物を乱して走るでない!」
片眉を上げ呆れた顔で、逞しい手を伸ばして私を優しく抱きしめた。
「ご、ごめんなさい。軍議が終わったって聞いて、早く会いたくて」
逞しい胸が頬に触れて心臓がドキドキする。
「他の者に見られたら何とする、貴様の肌を見た者は罰せられると心得よ」
「なっ、なんでそんな恐ろしい事を、肌と言っても脚ですよ?」
「阿呆が、それ以外の場所を見られるなど言語道断、即刻見た奴の首を刎ねる」
ふんっと、怒りながら私を抱きしめる腕に力がこもる。
「もう.........」
自分は常に見放題なくせに、本当に俺様だ。
まぁ、本当にそんな事はしない事、優しい事は分かってるけど.......
でも、きつく抱きしめられすぎて苦しい......
「っ、苦しいっ、信長様」
もぞもぞと動いて苦しみを訴えると、腕の力が少し弱まった。
「肌を無闇に晒した罰だ、貴様は本当に油断がならん」
ニヤリと口の端を上げながら、壁際に身体を寄せられ、唇を奪われた。
「っ、.........ん」
こんな廊下で誰かに見られたら、と、少し前までは信長様に言っていたのに、最近は言わなくなった........
すっかり信長様に染められてしまっている自分に笑ってしまう。