第62章 旅立ちの日〜最終章〜
「葵?」
広間を出ると、廊下から葵を呼ぶ声。
私の横に立つ葵の顔がパァッと花が咲いたように明るくなった。
「秀吉様!」
「城に来てたのか?」
「はい、アヤにお願いして、どうしてもしたい事があったので」
「そうか、あまり無理するなよ」
ぽんぽんっと葵の頭を撫でる秀吉さん。
その笑顔は、誰にも見せた事がないほどに優しく愛おしい者を見つめ、
葵の顔もまた、私の知らない愛しい人を思う顔へと変わった。
「アヤ、御館様がお前を探していらしたぞ」
「信長様が?あれ、そう言えば軍議は?」
秀吉さんも天主にいたのに.......
「軍議は終了だ。明朝までは皆自由に過ごせと、御館様が仰せになった」
「そうなの?」
「ああ、今から葵の御殿に行こうと思っていたんだが、手間が省けたな」
秀吉さんはそう言って葵にとびきりの笑顔を向けた。
「秀吉様.......」
既に二人の世界に入った幸せそうな二人に「じゃあ行くね」と声を掛けて、私も天主へと向かった。