第62章 旅立ちの日〜最終章〜
「ありがとう。まだ昨日の話で、私の父にも、信長様にもお伝えはしていなくて、戦が一段落して秀吉様が戻られたら二人で挨拶に行こうって話してて.......」
「そっか、そうだよね。分かった、信長様にも内緒ね。でも、本当に嬉しい。おめでとう」
「ふふ、でも信長様にアヤが隠し切れるとは思わないからきっとバレるって、秀吉様は言ってたよ」
「うぅっ、秀吉さん、痛い所を.........」
多分、今夜にはバレてしまうかも。隠し事が成功した試しは一度もない。でもがんばる。
「だからこの甲冑に私の想いの全てを込めて、無事でお帰りになられるように、磨き上げたい」
葵はとても大事そうに、愛おしそうに、秀吉さんの甲冑に触れる。
大切な人が戦へと行く。
不安で泣きそうな気持ちは皆同じ。
どうか無事であります様に。
元気な姿で、戻って来てくれますように。
その時は、ギュッと抱きしめ合えますように。
その日が来る事を夢見て、私達は待つしか無いのだ。
「..............出来たね」
互いに甲冑を磨き上げ、決意を秘めた顔で葵は話しかける。
「うん。信長様の甲冑を上座に置いてくるね」
明日、甲冑をその身に纏うまでは、広間の上座に信長様の甲冑は飾られる。
「よっ....」
こんなのを身に付けてよく動けるなと思うほどに甲冑は重いので、まずは兜から持ち上げた。
上座まではすぐそこ、........だけど、
「あれ?....」
何だか目眩がしてふらふら体が揺れた。
兜を落としてはいけないと、その場にとりあえずしゃがみ込んだ。
「アヤ?」
葵が慌てて来てくれる。
「あ、ごめん、何でも無いの。ただここ数日何だかふらふらして.....」
貧血っぽいのだ。