第61章 欲しいもの
目の前で、華奢な身体を震わせながらも俺を睨む
アヤに、先ほどの無邪気な笑顔は微塵もない。
「..........ふっ、俺らしくもない」
「えっ?」
「来いっ!」
「やっ、離してっ!」
ざわざわした心に再び蓋をし、アヤを抱き抱え台所を出た。
「降ろして、信長様っ!」
ジタバタと腕の中でもがくアヤ。その度に媚薬の様な甘い香りが鼻を掠め、俺の征服欲を駆り立てる。
「.........っ、......いっ!」
引き寄せられる様に、アヤの首筋に痕を落とす。どの女にも付けたことのない所有痕、なぜ此奴にはこれ程までに俺の証を刻みたいのか.......
「降ろしてもいいが、ここで貴様を今夜は抱くことになるぞ」
天主に続く廊下の真ん中で、アヤにあり得ない選択肢を突きつける。
「.....................っ」
怒りと困惑で顔を赤らめるアヤに、もはや先程の笑顔はない。
「それで良い、貴様は俺のものだ。大人しくその身を委ねていろ」
「っ、酷い!」
俺の胸を叩きながら睨みつける女に、どうしようもなく心が揺さぶられる。
無理矢理手に入れた俺に貴様が笑う日は来ぬのだろう。
女の笑顔を欲しがるなど、俺らしくもない事を。
だが、どんなに俺を嫌おうと構わん。
貴様は既に俺のものだ。
俺は貴様を放しはしない。
ただ今夜もこの腕に抱くだけだ。
苛つきと、焦りと、狂おしいほどにアヤに執着するこの感情の名前を何というのか、この時の俺は知らない。
天主にアヤを連れ帰り、その夜もアヤが気を失うまで俺は抱き続けた。
...............アヤが俺に再び笑顔を見せたのは、お互いに想いに気づいた後、シンを贈った時だった。
『私に?このわんちゃんを?かわいい〜人懐っこい』
『貴様もそんな緩んだ顔をするんだな』
『信長様。仔犬ありがとうございます。大切に育てます』
こんなにも無防備に笑うのだと思い、愛おしいと言う気持ちを初めて知ったと同時に、貴様が笑うと、俺も笑いたくなるのだと言う事も、初めて知った..................