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恋に落ちて 〜織田信長〜

第61章 欲しいもの



「..........あの、信長様はどうしてここへ?」


「俺か?俺は............これを探しに」


棚の奥に隠された壺の中からお目当てのものを探し出しアヤの目の前に出して見せた。


「こん....ぺい..とう?」


「やはり知っておったか。貴様の時代には普通にあるのか?」


「.......はい。でも、信長様が金平糖をなぜ探しに?」

「食べる為に決まっておる。いつも食べすぎるゆえ、秀吉がこの様に隠すのだが、奴の手の内はお見通しだ」


「.........金平糖が、好きって事ですか?信長様が?」

「そうだ、何が言いたい」


驚いた顔をしたアヤは、目をまん丸に見開き、


「............ふっ、あははっ、信長様にも可愛い一面があったんですね」


声を上げて笑った。


「......................っ」


............笑った。


女に可愛いなどと言われ、不愉快極まりないこの態度なのに、心の臓がドクンと跳ね、言葉を失った。



「..........貴様、何がおかしい」


漸く口から出た一言に、アヤは笑いながら言葉を続けた。


「だって、いつも怖い顔してお酒を飲む信長様が金平糖って.....意外で........ふふっ」


無防備に笑うその笑顔に時が止まった様な感覚を覚える。


「................っ」


無意識に手が伸びて、アヤの髪を一房手に取った。


(もっと、笑え)

そのまま引き寄せて唇を奪いたい衝動に駆られたが、


「........っ、信長様?」


途端にアヤからは笑顔が消え、恐怖の色が浮かびあがる。


その顔で俺は我に帰り、手を離した。




...............あぁ、そうだ。


アヤは、俺を恐れている。


本能寺で俺を助けた時も、アヤは何の褒美も要らぬと言った。


此奴が笑うのは、喜ぶのは、地位でも名誉でも、豪華な装飾品でも何でもない。


アヤらしくいる事が、笑顔を作る源であったのに、それを俺が奪った。


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