第61章 欲しいもの
「...........信長様?」
過去の記憶を辿り黙りこむ俺に、アヤは不思議そうな顔を向ける。
「.......笑え」
むにっと、柔らかな頬を摘むと、
困惑しながらも、頬を緩めて微笑むアヤ。
「................堪らんな」
欲しくて欲しくて堪らなかったものが、今は腕の中に......
顔を引き寄せ口づけると、目を閉じてそれに応えるアヤ。
心が、満たされてゆく。
貴様の笑顔を、下らない地位や名誉、豪華な装飾品等で得られる訳がなかった。
愛されているからこそ向けられるその笑顔は、何物にも代え難く、愛おしい。
「アヤ、愛してる」
想いに気がついたあの日から、何度口にしたか分からない言葉。
だが、言い足りない。
この気持ちの名前を早くに知っていたら、貴様をもっと甘やかしてやれたものを。
「私も、愛してます」
欲のない俺の女はあの頃の俺を責める事もせず、頬を染め愛を囁き返す。
貴様が欲しいと言えば、どんなものでもくれてやるのに、貴様はそんなものを欲しがらない。
二人で共に過ごす時間の中で、言葉を交わし、手を繋ぎ、肌を重ね合う事が嬉しくて幸せだと貴様は言う。
それならば、俺の全てを貴様にくれてやる。
だから、貴様の全てを俺に.....
「アヤ、愛してる............」
欲しかったものはこの腕の中、離しはしない永遠に...............