第61章 欲しいもの
それからアヤは、少しずつ元気を取り戻し、俺と会う時以外は、元気に城中を動き回り、皆の注目の的となった。
................だが、解せぬ。
俺の為に、なぜ笑わぬ。
織田家縁の姫としての地位も、贅沢な装飾品も、信長の寵姫と呼ばれるほどに毎晩夜伽に呼んでやっている事も、
女として、これ程の誉はないであろうに、なぜ貴様は俺に笑わぬ。
アヤを、もっと征服したい。
その次の朝餉から、アヤの膳は下座から俺の横へと移った。
喜ぶと思ったが、アヤは困惑した表情で、更に俺を睨んで来る。
益々分からなくなった。
何が望みだ。
女として、手にできるだけのもの全てを与えてやったのに......
だが、アヤは笑わない。
俺に抱かれている間も、必死に快楽から逃れようと抵抗し睨む。
貴様は俺のものだと何度言っても、いずれ他の誰かと婚姻を結んで幸せになりたかったなどとぬかす。
思い通りにならない女、だからこそ面白く、俺は気になるのだ。
いつも睨みつけてくるこの女を、笑わせて打ち負かしたい。
アヤに抱く初めての感情に戸惑う俺は、そう自分に言い聞かせていた。
・・・・・・・・・・・
ある日、俺は秀吉に隠された金平糖を探しに台所へ来た。
しかし先客がいたようだ。
物音がする方を見ると、アヤが何やらゴソゴソと.......
「貴様、何をしておる」
声をかけるとビクッと背中が震え、アヤは動きを止めた。
「何をしておるかと聞いている」
動きを止めたまま、振り返りもしない。
「おいっ!」
近づき無理矢理肩を持って振り向かせると、
「..............ぶっ、貴様.....」
それは、握り飯に噛り付き固まるアヤ....
「やっ、あの、これは......」
聞けば、針作業に夢中で夕餉を食べ損ね、空腹に耐えきれず台所の残りの飯で握り飯を作り食べていたという。
焦りを隠せないアヤ、こんな顔もするのだと胸の辺りが妙に擽られた。