第60章 花屋夫人
秀吉さんの御殿で、綺麗に身支度をしてもらい、一番大きな客間へと通された。
秀吉さんは、
『俺が城にいないと不審に思われるから、俺は戻る。後は頼んだ』
と言って、お城へと戻って行ってしまった。
とりあえず、下座にて御母上様と信包様を待つ。
急な事に、心の準備は全然出来ていない。
けれど、幸か不幸か、この世界に飛ばされてから、予想しない事に巻き込まれるのは日常茶飯だったから、何とかなると思える様になったのも事実で、今はただ、会いたい気持ちが優っていた。
襖が開かれ、二人の男女が客間へと入って来た。
慌てて頭を下げ、上座まで行くのを待っていると、その足は私の目の前で止まり、腰を下ろした。
「..........貴方が、アヤですね?」
「は、はいっ、初めまして。アヤと申します」
緊張から、声が上ずってしまう。
「クスっ、元気が良いのね。まずは、頭をお上げなさい」
柔らかくて優しい声に言われるまま、頭を上げた。
「..........あ、」
目の前の女性は、間違いなく信長様の御母上様だ。
だって、目元とか、顔の輪郭とか....とてもよく似てる。
「何か、私の顔についてますか?」
まじまじと見る私に、御母上様は優しく語りかけてくれた。
「あ、いえ、ごめんなさい。とても、信長様に似ておられるので.........」
お市にもよく似てる。
「まぁ、ふふっ、聞いていた通り、可愛らしい方なのね。ねぇ、信包」
「そうですね。姉上殿、信包です。お初にお目に掛かります」
今度は、信長様を若くした様な綺麗な殿方が私を姉上と呼んで頭を下げた。(織田家って、美形しかいないんだろうか)
「わわわっ、姉上って、私のことですか?」
「そうです。兄上の奥方様は、私にとっては義理の姉上になられる訳ですから」
ひゃー、むりむりっ
「勿体ないです。私の事はアヤと呼んでください。私も信包さんとお呼びさせて頂いても良いですか?」
慌てて訂正すると、信包さんは笑いながら、分かりましたと答えてくれた。
「女同士の方が話も弾むでしょう。私はまた後ほど兄上との会食でお会いしますから」
信包さんはそう言うと、客間から出て行かれた。