第60章 花屋夫人
「アヤ」
唇を離し、崩れ落ちそうな私を抱き上げ見つめる信長様の目は、熱を孕んでいるが、その奥に悲しみが見える。
やはり、今朝の事がまだ尾を引いている。
今夜は止む事なく、愛をぶつけられる様に抱かれるのだろう。
信長様は勘が鋭い。
秀吉さんが、御母上様の事を私に伝えた事も、私が何かを言おうとしている事も、きっと分かってる。その上で、私が話せないように先手を打ってきたんだ。
信長様の首に腕を巻きつける。
「信長様..........」
御母上様に会いたくないのなら、会わなくてもいい。
私でできるなら、どんな闇や悲しみも、受け止めてあげたい。
だけど、御母上様にしか癒せない傷は、きっと私ではどうする事もできない。
「...........何を、考えておる」
褥に横たわらせられ、私に覆い被さると、咎めるような目で見られた。
やっぱり、分かってるんだ。
「あの.......」
「貴様が気に病む事は何もない。俺だけを見て、感じていろ」
「あ、..........」
言いたかった言葉は、両胸を掴む大きな掌の愛撫で遮られてしまった。
そのまま深く口づけられると、どんどん快楽へと堕ちていった。
思った通り、信長様はいつもより激しく私を抱いたけど、いつも以上にたくさんの愛を囁いてくれ、降り注ぐほどのキスをくれた。