第59章 奥の務め
「あっ、ありがとうございます。わざわざもらって来てくれたんですか?」
まだ、噛まれた鼻が痛むのか、鼻を抑えながらアヤは皿の上の握り飯に目を移す。
「台所に、金平糖を探す目的以外で行ったのは初めてだ」
「ふふっ、そう言えば、初めて会った頃より金平糖を食べなくなりましたね。あの頃は秀吉さんが必死で隠してましたけど」
握り飯を頬張りながら、アヤは楽しそうに思い出し話す。
「そうだな、今は、金平糖よりも甘くて美味いものを手に入れたからな」
貴様を知ってからは、どんな甘味も意味をなさない。
「だが、此度の戦には持って行く必要がありそうだな」
貴様を、暫くは抱けぬからな。
アヤの頬に手を当てると、きょとんとした顔を一瞬したが、すぐに微笑んで、俺の手に頬をすり寄せた。
「全然、飽きんな」
貴様という深みにはまるばかりだ。
食べ終わるまで待ってやろうと思ったが、限界だ。
「わわっ、信長様?」
握り飯を食べるアヤを抱き上げ天主へと向かう事にした。
「天主に着くまでに食べ終えよ。もう、我慢ならん」
アヤは分かりやすく顔を真っ赤にしながら、俺の腕の中で握り飯を食べ終えた。