第59章 奥の務め
「いっ、........っ、信長様?」
アヤは驚いたように目を見開いて、痛みを訴える。
「......それならの次は、何を言おうとした。浮気をしても良いとでも言おうとしたか?」
「ち、違いますっ!その....」
「早く言え」
「だ、だから、浮気心が出ないように、満足するまで抱いてから行って下さいねって、言おうと.........んん」
もう、黙れ!
貴様の戯言を最後まで聞く気など、鼻から無い。
浮気だと?
他の女で紛れるならとっくに紛らわしている。
悔しい程に、貴様に溺れている。
「あっ、のぶっ.........んっ」
触れたいのは貴様だけだ。
愛しているだけでは伝えきれぬこの思いを、どうやって、貴様に伝えればいいのか。
糸を引きながら唇を離せば、アヤは涙で目を潤ませ、浅い呼吸を繰り返していた。
「ふんっ、貴様に言われずとも、満たされるまで存分に抱いてから戦には行くが、直ぐに俺を他の女にくれてやろうとするその癖、いい加減に直せ」
「なっ、他の女の人になんて一言も、浮気はダメだと散々言ってるじゃ無いですか、なのに、変な事を言うから.....」
「俺がすぐ、浮気をすると思う事が許せん、貴様は俺の貴様への想いの深さをみくびり過ぎだ」
ガブリと、今度は鼻を噛んでやった。
「いっっったい!もう、さっきから、何で噛むんですか?」
噛まれた鼻を摩りながら、更に涙目になるアヤ。
そんな怒った顔も愛おしい。
貴様の全てを、愛している。
「ふんっ、俺を疑った罰だ!先ずはこの握り飯を食え。痩せるなとあれ程言っておるのに」
今すぐこのまま押し倒して抱きたかったが、ここは針子部屋。今夜は寝かせる気はない俺は、皿の上に乗った握り飯をアヤの方に差し出した。
(少しでも体力をつけてもらわねば、すぐに気を失うからな)