第59章 奥の務め
バシンッ!
勢いよく針子部屋の襖を開ける。
ツカツカと中に入ると、
「..........やはり、ここにおったか」
作業中に寝落ちしたアヤの姿が.......
ほっ....と、胸を撫で下ろす。
この感情も、アヤと出会って知ったものだ。
何かに安心するなど、俺が思う日が来るとは思っていなかった。
「アヤ、アヤ」
名前を呼んでも、体を揺すっても、起きる気配はない。
針を持ちながら眠りにつくアヤの手から、針を取り、針山に刺す。
「っ、.........これは」
よく見ると、アヤの手の平は血豆だらけで.......
おそらく、乗馬と薙刀の練習でできた物なのだろうが、数日前には無かった筈だ。
袖をまくって腕を見ると、そこかしらに痣ができている。これも、数日前にはなかった。
戦が早まると聞いて、焦って無茶をしたであろう事は一目瞭然だった。
「......無理をしおって」
天主に連れ帰ろうと眠るアヤを抱き上げると、
「......また痩せたな」
童のように軽くなったアヤ。
恐らく、飯もまともに食っておらんのだろう。
美味い物に目がない割に、何かに熱中すると食べる事を忘れるのは、三成といい勝負だな。
貴様に、こんな事をさせたいわけではない。
呑気に、わがままを言わせて、甘えさせておきたいものを.......
こんな、満身創痍で......
疲れ果てた寝顔に口づけを落とすと、ピクリと目蓋が動いた。
「................ん、......」
目をゆっくりと開けるアヤは、俺の腕の中で抱き上げられているとも知らず、寝返りをうとうとして漸く自分がどこにいるのかを気づく。
「あ、私寝ちゃって...........えっ?私.....浮いて...る?」
少しづつ状況をのみこんで、アヤは顔を上げ俺を見た。