第59章 奥の務め
争いを嫌い、血を怖がるアヤが戦について行きたいと言った事はこれまで一度もなかった。
毛利に拐われ、船の上での戦を目の当たりにし、自らも怪我を負った事で、アヤの中で何かが変わったのだろう。
口を塞いで抱いてしまえば言いくるめられると思ったが、意思は固く..........
頭ごなしに連れていけぬと伝えても納得する気配のないアヤに条件を突き付けた。
それは決して満たすことのできない物と分かった上での条件であったが、何も知らぬアヤはその条件に沿うようにと健気に努力をし続けていて、誰の目にも明らかに、無理をしていた。
だが、もう潮時だ........
今夜、連れて行けぬと、奴が納得するまで話し合うつもりで天主へと戻った。
「アヤ、戻った」
襖を開けてアヤの名を呼ぶ。
全ての部屋の行燈は灯ったままだが、アヤの返事がない。
よく、俺が戻るのを待ちながら寝落ちしている為、アヤの文机を確認するがおらず、閨にもその姿が見受けられない。
(........まだ、戻っていないだと?)
俺よりも遅くなる事はあり得ず、しかも遅くなる事は禁じてある。
急いで天主を出て、針子部屋へと向かう。
熱中し過ぎ時間を忘れるアヤを何度も抱き抱えて天主へと連れ帰ったことがある。
だがもし、針子部屋にいなかったら........
嫌な予感が頭をよぎる。
側にいなければいられないのは俺の方だ。
腕の中に閉じ込めて、息もできぬ程にアヤを奪い尽くしたい。
手加減などせずアヤを抱いて、啼かせて、あの甘い声を聞き続けていたい。
何より、もうアヤを失う事は考えられない。
だからこそ、今回も判断が鈍った。
できることなら戦に連れて行きアヤを手元に.......と、思ったのも事実で.....