第59章 奥の務め
「母上は母上のやり方で、うちの御殿を守ってると思うし、アヤはアヤのやり方で、この安土城を守っていけば良いんじゃないのかなぁ。母上の様に、上に立って指示を出すやり方もあれば、アヤの様に、みんなで力を合わせて出来る事を補い合うこの城の形も良いと思うけど......」
出来ない事を補い合う........
「でも、私は、補ってもらってばかりな気がするんだけど.....何も助けになる様な事は.......」
「なってるよ。アヤがいない安土城にはみんなもう戻れない程に、アヤがこの城に来た事で、色んな事が変わったんだから」
「私が.....来た事で?」
何も....変わってないと思うけど........
分からないと言った風な私が可笑しかったのか、葵はふんわりと微笑んだ。
「一番大きいのは、やはり信長様が穏やかになられた事かな。.........って、私はアヤが来るまでほとんどお城に上がった事はなかったから、これは秀吉様の受け売りなんだけど、信長様は気難しくて、些細な事にも苛立って腹を立て、家臣や女中達が咎を受けるから、皆怯えて過ごしてたって。でも、アヤが来てからはそんな事は全く無くなって、皆んな伸び伸びと自分の仕事ができる様になって、仕事効率が上がったって聞いたよ」
確かに、来たばかりの頃、信長様は些細な事でいつもお城の人たちを処罰していた。私もそれが恐ろしかったのを覚えてる。
「アヤのここでの役割は、無理をせず信長様を支えられればいいんじゃないかな。信長様を幸せにし続ける。こんな難しい事、奥方であるアヤにしか出来ない事でしょ?」
ね、と葵は軽くウインクをした。
今.......どんな凄い事を言ってくれたかなんて、きっと分かってないんだろうな。
お互いできない事を補い合い助け合う。
それが夫婦の形。
乱世だとか、五百年後の未来だとか、そんな事じゃなかったんだと葵の言葉が気付かせてくれた。