第59章 奥の務め
「秀吉様に言われた事で悩んでる?」
前振りも何もなく、葵は核心に触れてきた。
「っ、.........うん。秀吉さんに聞いたの?」
「少しね。内容は詳しくは知らないけど、アヤにきつく言いすぎたって、落ち込んでたから」
「そ、そんな事ないっ!秀吉さんは正しいよ。ただ、もう恋仲じゃなくて奥様になったんだからって言われて、あぁその通りだなぁって......。私....いつも自分自分で、何も信長様の妻らしい事してないなって思って....」
「なるほどね。それで、戦について行きたい気持ちと、奥の仕事の使命感の狭間で悩んでるわけだ」
「奥の仕事って、実はよく分からなくて..... 葵のお母上は、御殿で日々どんな事をしてる?」
本当に分からない。
正直な所、秀吉さんに言われるまで、奥の仕事と言うものに気がつかなかった。
もし、乱世に来る事なく500年後の未来で結婚したとしても、夫婦共働きで、家事は分担してってざっくりだけどそういうものかなと思ってたから.....
でも、乱世は、この時代は違う。
「うーん、母上は日々御殿の細かいことに気を配って女中さん達に指示を出したり、父上の代わりに手紙を認めてのやり取りとかもしてるかな。あとは、私や兄弟の世話にも手を抜いてないと思う。そんな母上を尊敬してるし、私もそうなりたいとは思ってる」
「........そっか.......凄いね。私は、その一つもしてないな」
文字を読む事にも書く事にも慣れたけど、信長様の代筆なんてとても無理だ。
「母上は母上だし、アヤは、そのままでいいんじゃないかなぁ」
「え?」
葵は外を見つめながら、ゆっくりとお茶を一口飲んだ。