第59章 奥の務め
「..........様、.........アヤ様、........... アヤ様」
「.............っ、はい?」
名前を呼ばれ、気づけばカルチャースクールでの護身術の講義の最中。
私の名前を呼んだ麻さんが、厳しい目つきで私を見ていた。
(そうだ、護身術の最中だ)
葵が組手の相手で、ちゃんと袴姿に自分も着替えてるけど、記憶が飛んでる。
考え事に気を取られ集中できず、気がつけばみたいなことが、ここの所増えていた。
「............っ、ごめんなさい。考え事をしていて....」
「大丈夫?今日はいつにも増して顔色が悪いけど」
葵も、心配そうに顔を覗き込んできた。
「うん、大丈夫。ごめんね」
「アヤ様、体調が悪いのでしたら、本日はお休み下さい」
「いえ、大丈夫です。出来ます」
ダメだ、もっと集中しないと
「いいえ、いけません。今のアヤ様では、皆の講義の妨げとなるだけです。護身術の訓練は対になって行うもの、集中できない者と組めば、相手も怪我を負いかねません」
「.............っ、すみません」
麻さんの言う通りだ。
私はいつも、物事の切り替えがうまく出来ない。
「私も体調が悪いので、お休みさせて下さい」
言葉を失う私の横で、葵が休みを申し出た。
「っ、葵!?」
「わかりました。では、アヤ様をお願いします」
麻さんは軽く微笑んで講義へと戻って行った。
「行こう、アヤ」
「え、でも......」
「大丈夫だから。少し話そう」
「う、うん」
稽古場を出て着替えを済ませると、お茶を手に部屋の縁側に座った。