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恋に落ちて 〜織田信長〜

第59章 奥の務め



「...... そんな、じゃあどうすれば」

「どうもできない。今回はお前の頼みでも聞けない。アヤ、お前はもう信長様の恋仲じゃなくて、奥方になったんだ。奥の仕事は、御館様が戦で留守の間、城の者たちの世話をして、安心させる事じゃ無いのか?」


「...............っ」

その通りだ。

「それに、お前に何かあった時の、一年前の様な信長様を俺はもう見たくない。だから、これだけは聞けない。悪いなアヤ」


ぐうの音も出ず、私はその場に立ち尽くしながら、去って行く秀吉さんを見送った。


恋仲ではなく奥方として.......


ずーーーんと心にこの言葉が響いた。


本当に秀吉さんの言う通りで、未だ恋仲気分で浮き足立っている事をズバリと指摘されてしまった。





・・・・・・・・・・

「よっ......と」

備品庫の棚の上に手拭いを置いて整えながら、さっきの秀吉さんの言葉を思い出していた。


信長様に、今まで通りでいいと言われていた事もあるけど、本当はそれで良いはずがないんだ。


お城は会社組織の様だけど、それ以上に家族でもあり、その頂点に君臨する信長様の奥さんとなった私は、もっと周りに目を配らなければいけないんだ。


「でも、奥の仕事って、何だろう」


必死で考えて思い浮かんだのは、相撲部屋の女将さん。

メディアの特集で見た事がある。親方である旦那様を支え、お弟子さん達を我が子の様に可愛がり面倒を見て、誰よりも朝早く起きて、家事全般に支援者達との交流も行う。場所が開かれた時は全力で部屋のお相撲さん達を応援して........
けれどもその姿はとても美しく凛としていて、女性の鏡の様だと思ったのを覚えてる。


私は、そのどれか一つでも出来ているんだろうか。

朝も起きれなければご飯すらまともに作れない。


カルチャースクールだって、何もできない私の為に秀吉さんが開いてくれたもので、他の姫たちはそつなくこなせている。

でも、誰も文句を言わず、私に付き合ってくれてる。

お城の人達も皆優しい。

だけど、結婚をしても恋仲の頃と変わらず、奥の仕事の事を何も言ってこないのは、私が単に頼り甲斐がないからなんだろうか。


私の焦りは更なる悩みを生み出し、その落とし所も分からないまま時間だけが過ぎて行った。


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