第59章 奥の務め
「..........っ」
私に、オフィスラブなんて到底無理だ。
結婚して一緒に住んでいるのに、毎日毎日好きが増えて行く。
オフィスでばったり会って、触れたい衝動を抑えられる自信がない。
今だってほんとはまだ口づけていたいし、抱きしめていてほしい。
信長様は違うのかな?
「まだ足りん、寄越せ」
「んんっ......... 」
今度こそ以心伝心だ。
指を絡ませて、体を重ねるように口づけ合えば、それだけで終われない事は分かっているのに、触れ合わずにはいられない。
「っふ、......ん、信長様......」
「......っ、アヤ、そんなに煽るな」
糸を引きながら離れる唇は、その後を期待させるのに.......
「今はここまでだ、やめられなくなる」
つーっと、私の濡れた唇を信長様は親指で拭き取った。
「..........っ」
まだ、触れ合っていたかったのに.....
「ふっ、そんなに、残念そうな顔をするな。その内時間を作ってじっくり可愛がってやる」
信長様は苦笑しながら起き上がり、私も起こすと、着物についた芝を払ってくれた。
いつもは、嫌だと言ってもやめてくれないのに、こんな時はあっさりと手を止めることができる信長様は、やっぱり大人で....
自分の気持ちばかりが膨らんで苦しい.......
「外はまだ冷える。貴様が風邪を引く前に戻るぞ」
「..........はい」
優しく手を引かれ馬に再び跨った。
束の間の逢瀬で与えられた熱は中々覚めそうに無かったけど、僅かでも信長様と触れ合えて、心が満たされていくのが分かった。
一年、離れていた時間があったけど、あれは記憶喪失だったから。それ以外で一週間以上離れた事なんてないから、一月も二月も離れていられる自信がない。
早く、秀吉さんたちから了解を得ないと........
私は、本当に焦っていた。