第59章 奥の務め
「もう、信長様!急にあんな事、危ないじゃないですか!」
「真冬の湖はさぞかし冷たいだろうな。よかったな、入らずに済んで」
私の気も知らず、信長様はくっくっと笑っている。
「戦では、突然の鉄砲音や槍の音で、馬は怯えて暴れだす。時には馬に矢が刺さり、振り落とされるやも知れん。常に、安全に馬に揺られておるとは限らん。不測の事態にも備えておけ」
私を優しく抱きしめ、耳元で囁かれた。
「は.....い。ありがとうございます」
私が早駆けが苦手な事、信長様はちゃんと分かっていて、身をもって教えてくれたんだ。
いつも、どんな時も、本当に凄い人。
「ここまで来れば誰もおらんだろう」
「え?」
「少し、休んで行くぞ」
信長様は、馬から降りると近くの木に馬を括り付け、私を降ろすと、原っぱにゴロンと寝転がった。
今、少し休んで行くって言った?
「ほ、本当!?」
その言葉が嬉しくて寝転がる信長様の顔を覗き込んだ。
「ふっ、先程から貴様の顔に、抱きつきたいと書いてある。放ってはおけん」
き、気づかれてた!?
その事実に一気に顔が熱くなった。
「抱きつきたそうに見てきたり、手を繋ごうと手を伸ばしたりと、忙しい奴だな」
ニヤリと笑うと、覗き込んだ体を引き寄せられ口づけられた。
「わっ、っん」
支えを失った体は信長様の胸板に倒れ込み、唇が重なると、くるりと体を反転され、押し倒されるような形になった。
「んぅ、.........っは、...ん」
何の前触れもなく急に塞がれた口からは、息苦しさも相まって、声が漏れる。
時間がなくても、軽く触れるだけのキスは毎日したけど、ここ最近、絡み合うように口づける時間は本当になくて......
苦しくても、誰に見られても構わないから、もう少し、このままでいさせてほしい。
貪るような口づけに酔いしてれいると、
「先程まで顔色が悪かったが、良くなったようだな」
唇を少し離して信長様がいたずら気に言った。