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恋に落ちて 〜織田信長〜

第59章 奥の務め



「アヤ行くぞ」

「え?」

「少し、馬の練習に付き合ってやる。来い」


私の手を取って、馬の繋いである方へ信長様は歩き始めた。
繋いだ手と手の指を絡めると、強く握り返してくれる。
さっきまであった距離が一気に縮まり胸がキュッとなった。



「これだな。どうだ乗り心地は」

繋いであった白馬の前で、信長様は足を止めた

「は、はい。とても大人しい子で、安心して乗れてます。こんな凄い贈り物をありがとうございました」

そうだ、まだちゃんと馬のお礼を言えてなかった。

「ふっ、礼はいつも言っておるが、貴様自身からたっぷりと貰う。ほら乗れ」

赤くなる私をよそに、信長様は私の馬にそのまま跨がって、私を引き上げ前に乗らせた。

「?信長様も一緒に乗るんですか?私もう、一人で乗れますよ?」

「それが本当かを見てやる、手綱をしっかりと握れ」


不思議に思いながらも手綱を握った。

「行くぞ」

その言葉を合図に信長様は、馬の腹を思いっきり蹴った。

ヒィーーンと馬は両前脚を上げながら悲鳴を上げ、走り出した。


「きゃあ!」

ドカッドカッドカッ.........

振り落とされそうになるのを必死で耐えるも爆走する馬はそのスピードをどんどん上げて行く。

ドカドカと馬が地面を蹴る音と、速まって見えなくなっていく周りの景色に恐怖が襲う。

「待って、信長様。怖い、お願い止まって」

声に出したって、馬に届く訳もなく、恐怖で身を縮こまらせれば、意に反して馬は更に速度を上げていく。

「アヤ、体を起こして前を向け」

「つ、無理です。できません」

「大丈夫だ」

信長様が私の体を包み込み、手綱を持つ手を支えてくれる。

「落ち着け、馬の勢いにのまれるな」

包み込まれた手から信長様の体温が伝わってきて、心が落ち着きを取り戻していくのが分かる。

「そうだ、そのまま力を抜け」

余計な力の抜けた体を起こして体勢を整え、手綱を引っ張りながら馬と呼吸を合わせていくと、どんどん速度が緩まり、やがて馬は落ち着いて歩き出した。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ........」

一瞬の出来事だったけど、冷や汗がどっと出て、手綱を握る手は力を入れ過ぎて小刻みに震えている。

気づけば湖まであと少しで、馬は砂浜を歩いていた。


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