第59章 奥の務め
「アヤ」
「は、はいっ!」
不意に名前を呼ばれ振り返ると、今頭の中で思っていた大恋愛の相手が馬に跨り目の前に、
「信長様、どうしてここに?」
てっきり、お城にいると思ってたから....
「貴様こそどうした」
「あ、私は葵に乗馬の練習に付き合ってもらいながら、兵の皆さんに差し入れを届けに」
「そうか、俺も訓練の様子を見に来たのだが、思いがけず、貴様の百面相を見られて徳をした」
ニヤリと笑いながら信長様は馬から降りた。
(ひぃー、妄想オフィスラブの緩んだ顔を見られてたなんて!)
あたふたする私を楽しむ様に、信長様は私の真っ赤な顔を覗き込んだ。
「貴様は、どこにおっても飽きんな」
くくっと、楽し気に笑う信長様に見惚れてしまう。
朝餉以外で、日中顔を見るのは久しぶり。
今の今、信長様のことを考えてたから、実物に会えて余計にドキドキしてしまう。
(みんなの前だから無理だけど、このまま抱きつきたいな)
以心伝心しないかなぁと思いながら、じっと信長様を見るけど、
「どうした」
綺麗な顔で目を細めて、笑うだけ。
残念、以心伝心ならず.........
せめて手だけでも繋ごうと、そーっと手を伸ばすと、
「信長様、おいででしたか」
秀吉さんが信長様に気がついてこっちに走ってくるのが見えた。
私は慌てて手を引っ込める。この作戦も失敗。
う〜エレベーターさえあれば.......
「すみません、おいでとは知らず。直ぐに訓練を再開します」
訓練再開の合図をしようと、秀吉さんは手を上げた。
「いや、いい。休憩はしっかり取らせろ。無駄な怪我に繋がる」
「ですが.....」
「構わん、貴様ももう少し休んでやれ」
信長様が秀吉さんの横に立つ葵をチラッと見ると、二人は照れた様に見つめ合った。
う〜ん、やっぱりうらやましい。