第59章 奥の務め
乗馬は、乗せてもらうだけでも、最初は大変だと感じていたけど、自分で馬を操るのは全身運動で、馬との意思疎通が最初の頃は上手くいかず、中々思う様には進んでくれなかったり、急に走り出したりと大変だった。
それでも葵が根気強く付き合ってくれて、一人で今日みたいに湖までライディングできる様にはなった。でもまだ、早く走らせたりするのは苦手だ。
信長様の馬に乗れる事がどれ程幸せな事なのかを、改めて実感してしまう。
眠りに落ちてしまえるほど、優しく守られている事に自分で乗ってみて初めて気づいた。
「その馬、信長様から贈られたものなんでしょう?」
私の乗る、真っ白の馬を見ながら葵が尋ねてきた。
「あっ、うん。この馬がきっと一番乗りこなしやすいからって言って」
乗馬に苦戦している事を聞いて心配をしてくれた信長様が、比較的性格の優しい馬を探してくれ、プレゼントしてくれた。
真っ黒な信長様の馬と正反対のこの白い馬。この時代にいなければ、中々もらう事はなかったプレゼントにかなり驚いたけど、忙しい中、信長様が自分で乗って探してくれたのだと、馬を連れてきてくれた家臣の方から聞いて胸が熱くなった。
「一緒に、行けるといいね」
「うん。葵にも、こうやって時間を割いて付き合ってもらってるんだもん、頑張らないと。いつも本当にありがとう」
葵には、全てを話して協力してもらっていて、いつも応援してくれている。本当に感謝だ。
「気にしないで。差し入れがてら、秀吉様にも会えるし。」
ふふっと頬を緩めて笑う葵は、最近どんどん綺麗になっていく。
女子トークをしながらのライディングは楽しくて、あっという間に秀吉さん達が訓練をしている広場へと着いた。
「秀吉様!」
葵が秀吉さんを叫ぶ。
「葵」
その声に気づいだ秀吉さんは振り返ると、いつも以上に優しい顔をして、葵の名を呼び返した。
きっと、差し入れを持っていく事を葵から聞いていたのだろう。
秀吉さんは手を上げ一旦訓練を中断し、兵士たちに休憩を伝えた。
馬を降りた葵は嬉しそうに秀吉さんの元に駆けて行く。
私も馬を降り、ゆっくりと二人に近づいて、秀吉さんに挨拶をした。