第58章 合図
湯殿の脱衣所に来ると、腕から降ろされた。
「.....ありがとうございます」
信長様は無言で着物を脱ぎ出した。
と言うか、家康の部屋から一言も発してない。
気まずさと、気恥ずかしさから、少し信長様から離れて着物を脱ごうとすると、
「あっ......」
簡単に腕を掴まれ引き寄せられた。
既に一糸纏わぬ姿の信長様に抱き寄せられると、頬にはその逞しい胸が触れた。
「貴様の着物を脱がすのは俺の仕事だ」
シュルシュルと、帯が解かれ、着物が一枚、そして襦袢も、肩からするりと落とされた。
「あの........」
お互い、一糸纏わぬ姿で見つめ合った。
「ふっ、貴様から誘っておいて、恥じらうのか」
「ち、違います。あの、お身体を洗って差し上げたくて」
「なら、行くぞ」
信長様は、そのまま私の手を取り湯殿へと入って行く。
いつも思うけど、手拭いくらい、身体に纏わせてほしい。女同士で温泉に行く時だって、タオル一枚は持って入るのに。
男の人は、裸を見られることに、抵抗はないのかな。信長様はいつだって堂々としていて、こっちが目のやり場に困ってしまう。
風呂椅子に座る信長様の身体を洗おうと、信長様の手を取ると、
「湯浴みはあんなに嫌がっておったのに、どう言った風の吹き回しだ?」
私の腰を抱き寄せて言われた。
「.......あの、合図にしたいんです」
「合図?」
「私は、色んなことに疎くて、その、信長様の気持ちにも鈍感だから、これからも怒らせてしまうことがあると思うんです。」
「何を今さら」
「でも、私は喧嘩したままでいたくないから、その.....」
「はっきり言え」
本当は、裸にされる前にこの会話をしたかった。
抱き寄せられた腕も、触れる胸板も全てが信長様の素肌で、大切な事を伝えたいのに、ドキドキが治まらず、うまく言葉にならない。