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恋に落ちて 〜織田信長〜

第58章 合図



「あんたが居なくなった原因を作った張本人が目の前に現れたってのに、あんたは呑気にそいつの手を取って泣いて、友達でいようねって、俺だったら耐えられないね、あの人がその場で首を刎ねなかっただけでも、昔のあの人からすれば信じられないのに」


「.......................っ」


「.........だから、また泣かないでよ、鬱陶しい」

言葉はキツかったけど、何も言えず無言で再び泣き出した私に、家康はすーっと手拭いを差し出してくれた。

ぐるぐると感情が回る。

私は...........いつも同じ過ちを繰り返す。

信長様は、いつだってブレない。私を一番大切にしてくれているのに、私は色んなことが大切で、ブレブレだ。


「あんたのその能天気さと底知れない人の良さは、あんたの強みでもあるけど、時にそれは信長様の弱みになるんだって事、分かってあげなよ」


「.............っ、どうしよう、家康、私......」


卑怯で男らしくないなんて、ひどい事を言った。


あれは、あの態度は、信長様が私にだけ見せてくれた信長様の心の声だったのに。


「まぁ、言いたい事があるなら本人に言えば?ほら、迎えに来たみたいだよ」

(え?)

家康が廊下の方に顔を向けるから、急いで立ち上がって部屋の襖を開いた。


「.....................っ」

ふんっと、俺様に立ち構える信長様に、言葉にならず、抱きついた。


「部屋に戻るぞ」

そう言うと、当たり前のように私を抱き抱えた。


「はぁ、甘過ぎでしょ」

家康の呆れた声が聞こえてきた。


「ふんっ、何とでも言え」

「家康、聞いてくれてありがとう。突然ごめんね」

はいはいと言った顔で、家康は優しく笑うと部屋の襖を閉めた。



私を抱き抱えながら、天主に向かって歩き出す信長様の耳にこそっと囁いた。


「あの........一緒に......湯浴みに行きません....か?」




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