第58章 合図
その様子を茫然と見る私に、またしても信長様はふんっと言った感じで見るから、思わず目を背けてしまった。
何をどう突っ込めばいいの?
そんな事やめてと言えばいいの?
でも、女中さんに感謝の意を述べるのはいい事だし、信長様は威厳がありすぎて怖がられてる所もあるから、あーやってみんなと打ち解けるのは悪くないのかもしれないし.......
............でも、モヤモヤする。
「どうしたアヤ」
分かってるくせに、信長様は口角を上げながら聞いてきた。
「.....別に、夕餉を食べに行って来ます」
耐えられない。
「いや、夕餉は、今夜はここに運ばせる」
「え?」
ここで夕餉を食べる日は、朝まで寝かせないって日で.........
そんな、こんなモヤモヤした気持ちで抱かれたくない!
「お一人でどうぞ。私は広間で食べます。女中さんにもその様に伝えますから」
(もう今夜は針子部屋にでも行って寝よう)
「待て、何を拗ねておる」
信長様は、ぷいっと部屋から出ようとする私の手を掴んで抱き寄せた。
「っ、分かってるくせに、拗ねているのは信長様の方です。こんなやり方卑怯です」
「卑怯だと?」
ピクっと、信長様の片眉が反応した。
逆鱗に触れると分かっていてももう止まらない。
「こんな風に私に仕返しして楽しいですか?悪趣味だし男らしくない!」
「何っ!」
信長様は怒りを露わに私の両肩を持って睨みつけた。
「私は、佐助君や幸に色目は使っていません。彼らは大切な友達だけど、私が好きなのは信長様だけです」
「当たり前だ。奴らと一緒にするな」
「じゃあ、何故怒ってるんですか?しかも外出禁止なんて、納得ができません。私は信長様の意のままに操れる玩具じゃありません」
何でも思い通りにしようと思わないでほしい。
信長様の目は怒りを含んでいて怖かったけど、私も負けじと睨み返した。
「ふんっ、可愛げのない、先程の女中の方が、まだ恥じらいがあったな」
「なっ!」
その言葉で、プチっと、何かが切れた。
「大っ嫌い!嫌い!信長様なんて最低!」
「アヤ!」
信長様は何か言おうとしていたけど、肩に置かれた信長様の手を払い退け、私は天主から飛び出した。