第57章 忍びの旅
...................ほら、お前またそんな嬉しそうに笑いやがって................
目の前にいる魔王の嫁になったのが、そんなに嬉しいのかよ。
ほんと、バカなやつ。
「もう行けよ。今回は祝儀がわりにお前たちの事は見なかった事にしてやる」
悔しいけど、お前の横に立つ信長には一寸の隙も無い。お前を大切に守っている事だけは認めてやる。
「...........幸、ありがとう。私は幸の事、ずっと友達だと思ってるからね」
お前がそんなに能天気でいられるのは、そいつに大切に守られてるからなんだな。
「ばーか、俺とお前は敵同士だ。もう、利用されねえように、次会う時までには、その底抜けにお人好しな所を治しておけよ」
「幸........、うん、がんばるね。ありがとう」
アヤは笑っていたけど、目元には涙が溜まり、
その綺麗な涙が滴となって、アヤの綺麗な頬を伝った。
拭ってやりてぇけど、それは俺の役割じゃねぇ。隣に立つ、ムカつく魔王が当然の様に、愛おしむ様に、その涙を親指で拭った。
「行くぞ」
「はい。.....じゃあね、幸。信玄様、お騒がせしてごめんなさい。失礼します」
アヤは俺たちに深くお辞儀をすると、自然に信長と手を繋いで城下を去って行った。
「ふっ、今夜は飲み明かすか、幸」
ガシッと、信玄様が俺の肩を組んで来た。
「何だよそれ、余計なお世話です。それに、甘味は出しませんよ」
「つれないこと言うなよ、失恋に甘味は必要だぞ」
「なっ、失恋なんてしてねー!誰があんな能天気な女、あんな奴、信長にのし付けてくれてやるってんだ」
「素直じゃ無いな」
「うるせー」
結局その夜は、朝方まで信玄様と飲み明かした。