第57章 忍びの旅
城下を抜け、馬に跨ると、信長様は無言で馬を走らせた。
馬の走らせ方で分かる。今の信長様は機嫌が悪い。
機嫌が悪くなった原因は、幸達にばったり会ってしまって、危険な状態になってしまったからに違いない。
だから、ちゃんと謝ろう。
「あの、危険な事に巻き込んでごめんなさい」
信長様は答えない。
「信長様、ごめんなさい」
やっぱり無視だ。
こうなると中々機嫌を直してはくれない。目的地の港に着くまでは大人しくしようと思い、ギュッと信長様に抱きつくと、信長様は手綱を思いっきり引っ張った。
「わっ!」
急に勢いよく手綱を引かれ、馬は前脚を大きく持ち上げ、空を蹴った。
「の、信長様?どうし、っぅん!」
慌てて後ろを向いた所を捕らえられた。
両手で顔を掴まれ唇が重なると、息苦しいほどに押さえ込まれた。
「んっ、んん.......」
息つく暇なく舌が蠢き、漸く離れたかと思うと再び深く舌に探られ呼吸を奪われた。
「は、っん、のぶなっ、ふぅん、くるしっ....」
シーンと、静まり返った雪化粧の森の道の中、必死で呼吸をしながら、荒い口づけに応える私の声と、ちゅ、ちゅぷっと、唾液の絡み合う音が響く。
うまく息ができなくて、飲みきれない唾液が首を伝うと、信長様はその首筋にツーっと、舌を這わして舐め取った。
「っ、はぁ、はぁ......信長、様?はぁ、はぁ」
何か、違う事で怒ってる?
「城へ戻ったら、貴様は当分、外出禁止だ」
唇が触れ合う距離のまま、思いがけない言葉を言われた。
「え?どうしていきなり外出禁止なんですか?」
意味が分からない。
「男に色目を使った。貴様はやはり油断がならん」
「は?いつ使ったって言うんですか?」
とんだ濡れ衣だ。
「先程だ。佐助にも、真田幸村にも使っておった」
「な、どう見たら使ったって思うんですか?信長様も一緒だったじゃ無いですか!」
しかも、ずっと黙ってたのに急にこんな事言うなんて。
「分からんなら、その身に直接分からせるまでだ」
不機嫌に、だけど不敵に笑う信長様に背筋がゾクリとした。
だけど、港で待つ光秀さんと落ち合う頃には、信長様はその機嫌を普通に戻していたからあまりその時は、深くは考えなかった。
だから、信長様がまさかあんな仕返しをするなんて、その時は全然考えてなかった。