第57章 忍びの旅
「あ、うん。結婚したの」
エンゲージじゃなく、すかさずマリッジリングと分かった所がさすが佐助君。
「凄いな。風邪の噂には聞いていたけど、本当に織田信長と結婚したなんて」
「私もまだ、あまり実感はないの。でも、幸せだよ。全部、佐助君のおかげだから。ありがとう」
佐助君の手を取り、ずっと言いたかった言葉をやっと伝えられた。
あの時、助け出してくれなければ、信長様にワームホールの事を教えてくれなければ、今の私と信長様はきっといない。
「いや、俺は何も。でも、君が無事に戻れて、幸せなら良かった。結婚おめでとう」
佐助君はそう言うと、僅かに目を細め笑った。
「佐助、これを」
信長様は袂から小袋を取り出して、佐助君に渡した。
「?これは.....金のまきびし?」
受け取った袋の中を見て、佐助君はまた少し表情を動かした。
「貴様には、何かの礼をしたいと思っておったからな。まきびし作りが趣味だとアヤから聞いておったゆえ、織田の忍びに作らせた」
「凄いな、投げたら戻っては来ない飛び道具なのに純金で作るなんて、さすが戦国武将。しかもこのまきびしの形は初めて見た」
佐助君は、顔からはあまり分からないけど、声からすると、興奮しているみたいだった。
「ありがとうございます。大切にします」
「礼には及ばん、貴様のおかげでアヤを取り戻せた」
信長様はそう言いながら、私の肩を優しく抱き寄せた。
「アヤ、そろそろ行くぞ」
「はい」
そうだった。こんなに和んで話してるけど、ここは敵地のど真ん中。いつ身バレするかも分からないんだった。
「今日は佐助君に会えてよかった。また良かったら、安土にも遊びにきてね」
「ああ、君が幸せそうで、元気そうで良かった。城の外まで送るよ」
「うん、ありがとう」
お城の外まではわずかな時間だったけど、ここに戻るまでの一年間、記憶が無かった事や、ワームホールが出現する直前に記憶が戻って戦国時代に戻って来たことなどを話した。
佐助君は、一つ一つを興味深そうに聞いて、
「記憶喪失が、単なる偶然か否か、俺も色々検証してみるよ。ワームホールは今のところ何年間かは出現しないと分かってはいるけど、また何か分かったら、直ぐに知らせに行く」
と、ワームホールの研究に新たな意欲を見せていた。