第57章 忍びの旅
城門へ着いて、門番の方へ受付けをする。
「名は?」
受付業務のお侍さんに名を聞かれたので、
「はい、猿飛アヤです」
「猿飛?」
「は、はい。兄の佐助に会いたくて」
「おお、佐助殿の妹君か。して、その後ろの御仁は?」
お侍さんは、私の後ろで立つ信長様をチラ見した。
「あ、これは私の従者です」
さすがにこれは苦しいかな。
「従者?随分と腕の立ちそうな従者ですな。流石、佐助殿の妹君の従者だ」
はははっと、お侍さんは疑う事なく関心した様に頷くと、「しばし待たれよ」と言って、佐助君を呼びに行ってくれた。
ふぅ〜
「上手く言った様だな」
信長様が緊張する私に笑いながら話しかけた。
「もう、心臓に悪いです。こんな堂々と真正面から行くとは思ってなかったので」
そう、信長様の案は、ただ単にお城の受付を通して佐助君を呼び出す事。
「敵地とは言え、俺の顔を知る者などそうそうはおらん。しかも佐助は五百年後の未来からやって来て、奴の素性もあまり知られてはおらんのだろう。貴様が妹と言えば迷わず呼出に応じるだろう」
正に、奇をてらわずに、だ。
さすが、天下人になろうと言う人は、一味も二味も違う。
「忍び込むものだと思ってたのでびっくりしました」
「ふっ、流石に忍びの真似は出来んな」
「ふふっ、そうですね」
「アヤさん!?」
背後から懐かしい声。
「........あ、佐助君、じゃなくて、兄上様っ!」
ズリッと、ほんの少し佐助君はずっこけた様に見えたけど、直ぐいつもの掴み所のない表情に戻って、走って来てくれた。
「.......驚いた。猿飛アヤなんて妹はいないけどもしかしてと思って来てみれば、本当に君だったなんて。しかも....」
チラリと私の後ろに立つ信長様を見た。
「ふふっ、驚いた?」
「ああ、驚いた。君達の行動力とその大胆さにはビックリだ」
驚いてるかどうかは、ほとんどその表情からは感じ取れないけど、少しだけ、びっくりしている様に思えた。
「ふふっ、いつも佐助君が来てくれてたから、反対に行って驚かせてみようってなって」
「なるほど...................所で、君のその指に光る指輪、マリッジリング?」
すかさず私の左手のリングに佐助君は気がついた。