第57章 忍びの旅
「信長様と、離れたくない」
諦めきれず、眠りにつく前にもう一度口にしてみた。
信長様は深いため息を吐くと私を強く抱きしめた。
「アヤ、俺は何よりも貴様が愛おしい。出来るなら貴様も連れて行き、戦禍の中でも貴様を感じたいのは俺も同じ事」
「じゃあ、」
「だがそれはできん」
「どうして!」
「簡単な事だ、......もう、貴様の血も涙も、俺は見たくない」
漸く、本心を聞かせてくれた気がした。
けど、
「っ、もう、怪我もしないし、迷惑もかけません、護身術も頑張りますから」
縋ってお願いをした。
「もし、.......子が出来たら何とする」
中々引き下がろうとしない私に、信長様はゆっくりと言葉を紡いだ。
「え?」
「今、この瞬間にも、貴様の腹の中に子が宿っておったらどうする。身重の身体では、走る事も馬に乗る事も出来んだろう。俺は、貴様を必ず守るが、腹の中の子を守る事が出来るのは貴様だけだ。それでも一緒に来たいと言うのか?」
「それ....は...」
正直、それは考えてなかった。
信長様と私の赤ちゃん。
生理が来て、お腹にいないと分かったあの時は本当に悲しかったし、欲しくないと言えば嘘になる。
「........でも、まだいません。赤ちゃんができるのはずっとずっと先かもしれないし、うー、一緒に行きたいのに、どうして、離れたくないのに、うぅっ」
最後は泣き脅しの様に、泣いてしまった。
「アヤ」
ぽんぽんとあやす様に背中を撫でられた。
「時間はまだある。それまでに子を宿したら、大人しく城に残れ」
諦めた声で、信長様は言った。
「じ、じゃあ」
「安芸までの道のりは長く険しい。出発までに、貴様の体力がそれに見合うと分かれば連れて行ってやる」
「ほんと?」
「ああ、貴様にはかなわん。俺が覚悟を決めるしかないな」
困った顔で信長様は笑った。