第56章 恋の指南
「何をそんなに急いでおる?」
「あ、あの、実は........」
そう言えば、信長様は気づいてたよね。私にもそのうち分かるって言ってたし。
あんな時から知ってたなんて、側近である秀吉さんの事、ちゃんと見てるんだな。
安土を揺るがす様なビッグニュースだから、今すぐ信長様とこの興奮を分かち合いたいけど、目の前に本人がいるから言えないや。
「何だ、早く話せ」
「んーと、今は話せません。でも、信長様の言っていた、いつか分かるが分かったんです」
秀吉さんに聞こえない様に、耳元でコソッと囁いた。
「ふっ、なるほど。だが廊下は走るな。たまたま俺だったが、他の奴にぶつかったらどうする」
「....ごめんなさい。気をつけます」
「駄目だ、反省の色が見えん」
「え、本当に気をつけます。ごめんなさい」
信長様の真剣な声色に慌ててもう一度謝り見上げると、
「あ、.........」
ニヤリと、したり顏で私を見下ろし噛みつかれる様に口づけられた。
(騙されたっ!)
「んーーーーーーっ」
頭の後ろをがっちりと押さえられ、お仕置きのように呼吸を奪われた。
秀吉さんに怒られちゃうと思って横目で伺うけど、もういない!何で?
怒る日もあれば、気を利かせていなくなる日もあるなんて、一体どう言った采配なのか......
せっかく割れずに済んだ陶器が手から滑り落ちそうになった所で、信長様は唇を離し、陶器を持つ手を陶器ごと掴んで助けてくれた。
「貴様に触れていいのは俺だけだ。ぶつかって他の者に触れさせるなど絶対に許さん。分かったな」
「.........気をつけます」
「ふっ、楽しんでこい。詳しくは夜に聞く事にする」
ちゅっと、おでこに軽く触れて、信長様は抱きしめる腕を解いてくれ、秀吉さんの待つ方へと歩いていった。
嵐のようにやって来て去っていった熱にぼーっとしながらも、お湯を貰って葵の待つ部屋へと戻った。