第56章 恋の指南
「.................様」
「えっ?誰?」
よく聞こえなかった。
「..................だから、秀吉様.....」
「へー秀吉様って人なんだ...................え、ええっっっーーーーー!!!!!!!!」
「アヤ、声が大きい」
葵は慌てて私の口を塞いできた。
「はって、ひれよきさんって」(だって、秀吉さんって)
あの秀吉さん?
安土一モテ男が、葵と?
なんて、なんてお似合いなの。
安土一の美男美女カップルだ。
「どうしよう、葵。興奮してきた」
「は?何でアヤが興奮するの?」
「だって、お似合いすぎる。どうやって知り合ったの?、どっちから?いつから?.....あ、長くなるだろうからお茶入れ直すね。待ってて」
「あっ、アヤいいよ」
「だめ、じっくり聞きたいから待ってて」
温かいお湯を貰うため、台所へと急いで廊下を走った。
すごい、すごい、秀吉さんと葵が付き合ってるなんて。
早く話が聞きたくて先を急ぐと、向こうの角から人が曲がって来た。
(わっ、ぶつかる!)
ドシンっと、避けきれずにぶつかってしまい、しかも手に持っていた陶器のお湯入れも手からスルリと離れてしまった。
「あっ!」
スローモーションの様に落ちていく陶器は、廊下に落ちる寸前で、誰かの手がキャッチしてくれた。
破れずに済んでよかったと、ホッとする間も無く、身体がキツく抱きしめられた。
そう言えば、人にぶつかったんだった。
もう、何となく感触で分かってはいたけど、そーっと上を向くと、
「信長様」
「貴様は、廊下は走るなといつも言われておるだろう」
呆れ顔の信長様が私を抱きとめていた。
「そうだぞ、アヤ」
陶器をキャッチしてくれた手は秀吉さんだった。
「あ、秀吉さん。ありがとうございます。割れなくて良かった」
胸を撫で下ろしながら、陶器を秀吉さんから受け取った。