第56章 恋の指南
なんで?
いや、なんではおかしいか。葵は美人で頭も良く気立ても良いから、恋仲の人くらいはいると思うけど、そんな話したことなかったし、ってか、そんな人がいるの?
いつも聞いてもらうばかりで、葵の事を私は何も知らない。
でも、葵程の人を恋仲に持てる男の人はそれだけでとても幸せに違いない。別にこんな、床上手を目指さなくても良いのでは........
葵が選んだと言うことに動揺していると、他の姫君達も「実は私も」「私も」「気になるよね」と口々に言い出し始め、本日の講義は[床上手]に決まった。
「では、始めましょうか」
こうして、講義が始まる時には誰一人、麻さんに嫌味や苦言を呈す者はいなくなり、興味津々に講義は始められた。
・・・・・・・・・・・
麻さんは、用意した黒板の様なボードに一枚の紙を貼った。
その紙を見た途端
ざわざわと、皆がざわついた。
それはまた、何ともあけすけな絵で、男女の体位が色んなバージョンで描かれていた。
これはまるで、インドに千何百年も前から伝わる愛の教典の様で.......
ざわつく私達には目もくれず、麻さんは好きな殿方ができたとき、もしくは初夜を迎えた時からの殿方との夜の営みの仕方について話し始めた。
まずは、雰囲気の作り方や、接吻の仕方など.....
「殿方にこの様に求められたら、アヤ様ならどうなさいますか?」
いきなり不意打ちで指名され、答えなければいけない時もあり.....
「えぇっ....と、私はいつもぼーとなってしまって、気がつくと信長様のペースで.....あまり記憶が.....」
真面目に答えてしまうと、
「きゃーー!やっぱり信長様素敵っ!」
「大人の男って感じ」
「他の武将達でいいから抱かれてみたい」
などと部屋は大盛り上がりとなり、
「クスッ、アヤ様は、本当に愛されているのですね」
と、麻さんも笑いを堪えた様に言ったりして.....
数時間の講義で終わることの出来ない、男女の永遠のテーマは、また次回への持ち越しとなった。
こうして、すっかり麻さんの講義に心を奪われた姫達は、満足げにそれぞれの御殿へと戻っていった。