第55章 怪我の功名
「........あの時の薬だな」
信長様が思い出した様に呟くと、辛く、悲しかったあの瞬間がふと頭をよぎった。
「あっ、でも、あの日からはもう飲んでません。ただ、そんなに早く子どもを授かるとも思えなくて」
「「そうだな」ね」
信長様と家康の二人が同時に頷いた。
「とにかく、今日体調が悪いのは本当なんだから、このお粥を少しでも食べて大事を取る事。子どもがいるかどうかはその内分かる事だし、安静にしてなよ」
家康は優しく言うと、そっと私の膳を私の方に押してくれた。
「今朝のお粥はあんたが作ったんでしょ?みんな美味いって言って食べてたよ」
「あ、本当?家康はどうだった?」
「俺は...まぁ、悪くないんじゃない」
ぷいっとそっぽをむいて言われちゃったけど、家康にしては珍しく褒めてくれて嬉しかった。
「ふふ、ありがとう」
「じゃあ俺はこれで」
信長様に軽く頭を下げると、家康は天主を出て行った。
「お粥、冷めちゃいましたけど、食べましょうか」
何を話せばいいのか少し照れてしまって、とりあえずお粥を食べようと勧めてみた。
「アヤ」
「はい?」
お椀に伸ばした手を不意に掴まれた。
「貴様の身体の事、気づいてやれなんだ」
「え、赤ちゃんの事ですか?それなら私だって.....」
「それではない、月のものが止まるほどに無理をさせていた事だ」
私の言葉を遮り、苦しそうに信長様は言った。
「......や、それは....私もあまり深く考えてなかったと言うか、本当に昔から不順で、よく止まっていたので........っ、ん」
掴んだ掌に、不意に口づけられた。