第53章 秀吉のぼやき ④
「単刀直入に言う。俺はお前が好きだ」
「え?」
「前に俺は、お前の気持ちには応えられないと言ったが、あれは無しにして欲しいんだ」
葵は全く訳がわからないと言った顔で、俺の話をじっと聞いていた。
「一生懸命に、俺に協力をしてくれるお前の事を、いつのまにか好きになってた」
お市様を好きだと思った。アヤの真っ直ぐで素直な所を可愛いと思った事もあった。
だが今、一緒にいたいと思うのは他の誰でもなく葵だ。
びっくりした様に葵の目が大きく見開き、涙が溜まりだした。
「私は今、夢を見ているのでしょうか。こんな.......嬉しい」
涙が零れ落ちた葵を俺は抱き寄せた。
「夢じゃない。俺と、恋仲になって欲しい」
「っ.....私で、本当にいいのでしょうか」
「お前がいいんだ」
顎を引き寄せ触れるだけの口づけをした。
「っ..........」
葵は、驚いたように固まった。
「お前が好きだ」
もう一度唇を重ね、俺の思いを伝えた。
唇を離し、余韻を味わうように葵を強く抱きしめた。
.............ん?
葵を抱きしめながらふと湖岸を見ると、見慣れた2人の姿が......
いや、この時間は軍議が開かれているはず。俺が居なくても問題ないと昨日仰られていたはずだが.......
見間違いかと思い、目を凝らすが、やはり信長様とアヤ。
二人は仲睦まじく歩きながら、時折見つめ合っては口づけ合うを繰り返しながら、ゆっくりと湖岸を歩いている。
...........もしや、アヤとの逢瀬の為に俺を使った?
「......秀吉様?」
急に固まった俺を不思議に思った葵は俺を心配そうに見てきたが、今日は葵との時間を大切にしようと思い直し、あれは見なかった事にして、その後は二人の時間を過ごした。